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熊な彼   

 暑苦しくて目が覚めたとき、何か違和感があるなっておもったら、隣で寝ている彼が熊になっていた。そりゃ暑いわけだなんて妙に納得しながら、熊になった彼をぎゅっと抱きしめているうちに、また眠りに落ちた。

カーテンの間からのぞくまぶしい光と鳥の鳴き声に再びおこされたときも彼は熊のままだった。きっと彼は自分が熊になったことに気づいていないんだろうな。なんて思いながら、彼が熊になったっていうこのイレギュラーな状態をわたしはすんなりと受けいれ、なおかつこんなに冷静でいられることに自分でも驚いていた。

すやすやと寝息を立てながら、いつもどおり死んだように眠っていた彼を揺さぶって起こすと、彼は目をこすって、わたしの顔を確認すると同時にむくっと起き上がって、やさしく唇を重ねた。彼とのキスがこれで何度目かはわからないけど、熊になった彼とのファーストキスって、なんかちょっと新鮮。ただ彼、まだ自分が熊になったことに気づいてないみたい。

服を着替えて、キッチンへと向かうと、彼も同時におきてきて洗面所に顔を洗いにいった。きっとそこで鏡を見た彼は自分の姿に驚くだろうって思ってたのに、彼は全く無反応。ちょっと拍子抜けして、ボーっとしてたら、パンも卵も黒焦げになっちゃった。パンは焦げてもジャムを塗れば何とかなるだろうって思ったんだけど、卵のほうはどうすることもできないよなぁって思って、でももったいないからそのまま黒焦げになった卵をお皿に乗せてテーブルに並べた。そしてわたし用の珈琲と、彼用の紅茶を用意した。

私は料理がそこまで上手じゃない。でもへたってほどじゃないと思う。ケーキを作らせたら、そこいらの人には絶対に負けない自信はあるんだけど、普段の料理は実家暮らしが長かったせいか、あまりうまいとはいえない。彼はいつも私の出した料理は何も言わずにもくもくと食べてくれる。おいしい?って聞くとどんなに失敗したものでも「おいしいよ」っていってくれる。だから黒焦げになった卵もきっと大丈夫だろうって思ってたんだけど、今日に限ってその考えはあまかったみたい。一口食べたあとに「これ、にがい」と一言いったあと、急に「ガーッ」っていう咆哮をあげた。

突然の咆哮にびっくりしたわたしは、そのときもっていたお気に入りのカップを落としてしまった。ガーッ、キャーッ、ガチャン。床に落ちたカップは真っ二つに割れ、中の珈琲が床を黒く染めた。そんな状態でも彼は咆哮するのをやめなかった。そんなにこげが気に食わなかったのかなぁ?ってわたしは申し訳なく思って「ごめんごめん」って言ってるうちに、だんだん悲しい気分になってきて、堰を切らしたように突然大声で泣き出してしまった。ワ~ン、ワ~ン。たぶん彼の前で泣いたのはこれが初めてだったと思う。

だからかな?その泣き声に驚いたのか、急にわれにかえった彼は、何もいわずに私のことをぎゅ~っと抱きしめて、頭をいい子いい子した後に「ごめんな」って何度も何度も繰り返しいい続けたあと、わたしの目をじーっとみていった。

「ごめん。俺、熊になっちゃった。」
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by Kurt. | 2005-07-21 20:40 | 雑文(創作系) | Top |

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